(県 裕樹) 「……何だよ翔、俺の顔になんか付いてるか? この整った端正な顔のパーツの他によ」 「あ、いや……トオルさん、俺の視線には気付くのになぁ、って……」 「はぁ?」 カフェバー『ハイド』のウェイターに扮した二人、保科翔と長谷川徹が客の途絶えた合間に、そんな会話を交わしていた。その会話を、空になった皿を下膳するウェイトレスの如月碧が更に混ぜ返す。 「そうですよ、他の皆はとっくに気付いているし……」 「だから、何だってんだよ」 「にっぶいな〜……事務の女性がトオルさんに熱い視線を送ってるの、分かりませんか?」 「!! ……あ、おやっさん! ちょいとビールケース片付けて来ますわ」 話の核心に触れた途端、徹はそそくさと逃げるようにその場を立ち去ってしまった。どうやら、全く気付いていないという訳では無いらしい。だが、何故か彼は、この話題を避けているように見えるのだ。 「気があるのは間違いないよね?」 「少なくとも、無関心ではないね。でも、何で避けるような……」 「そこの二人、手が留守になってるぞ。営業時間中だ、私語は慎め。それと……あまり人の事情に首を突っ込むもんじゃない」 「!! ……はい……」 カウンターから、良く通るバリトンボイスが飛んで来る。マスターの榊誠一だ。彼は探偵業と云う商売柄、他者の話をパッと聞いただけで凡その事情を掴んでしまうという特技を持ってはいたが、自らそれに首を突っ込むという事は決してしなかった。無論、他人のプライベートに干渉するほど野暮ではない、と云う彼自身の性格もそこに反映されていたのだろうが……とにかく、あまり深入りするなと云う警告が為されたのだ。まぁ、こうした恋愛絡みの話に敏感な世代の二人の事、気にするなと云う方が無理なのかも知れなかったが。 ●参ったなぁ…… フゥー……と、咥えた煙草の煙を燻らせながら、徹は一つの事を考えていた。 (気付いてねぇ訳じゃねぇ……しかし、俺はヤクザ上がりの任侠者だぞ! あんな大人しそうな、ホワーッとした感じのネェちゃんと釣り合う訳がねぇじゃねぇか!) そう、彼もその『噂のお相手』を意識してはいたのだ。だが、相手は堅気の女性。いつも命を張って生きている自分には不似合いだから……と、最初から諦めていたのだ。 仮に、自分と彼女が良い仲になったとしよう。その途端に、過去の自分を知る者に消されてしまったら……? それを考えると怖かったのだ。表向きはシニカルな皮肉屋、だが裏側は繊細で人一倍他者に気を遣う、心優しい任侠者……それが長谷川徹と云う男の正体だったのである。 (いつおっ死んじまうか分からねぇ、裏の世界に生きる俺達にゃ……色恋なんざぁ不要なのさ。あの二人にゃ、まだ分かんねぇだろうがな……おっと、所帯持ちが居やがったか。ま、アイツは殺しても死にそうにねぇし、大丈夫だろうがな) フッ、と同僚たちの顔を思い浮かべ、思わず苦笑いを浮かべる。そして煙草の火種を揉み消すと、携帯灰皿に吸殻を仕舞って良く手を洗い、うがいをする。これは榊が大の嫌煙家である為だ。無論、彼が他者の嗜好に物言いをつけるような狭い了見の持ち主でない事は分かっている。だが嫌いな物をわざわざ近づけるような野暮は、徹とて好きではない。だから可能な限りその痕跡を消して配置に戻ろう……そういう配慮であった。 ●どうしましょう? 「なかなか手ごわいですね」 「何たって、筋金入りの任侠者だ。義理人情には煩いぞ、奴は」 「でも! このまま見ているだけなんて……あの人が可哀想!」 ロッカールームの前で屯する、『ホークアイ』の面々。中でも、巨躯を屈めて小柄な二人に目線を合わせている三沢浩二の姿は滑稽ですらある。が、これを見ても分かる通り、彼を取り囲む事情は既に事務所内全員の知るところとなっていたのだ。 「ちょっと強引だけど、二人を同行させて外出して、二人を残してフェードアウトするってのは?」 「スタンダードだけど確実な手ではあるな。しかし途中で見破られたらアウトだ、奴が先に消えたら全ては水の泡となる」 「うーん……」 なかなか良い方法が思い浮かばず、頭を捻る三人。三人寄らば文殊の知恵とは言うが、船頭多くして船山に昇るともいう。つまり、同レベルの者が顔を付き合せて相談しても、なかなか妙案というものは出ないという事なのだ。 「二人は恋人同士なのだろう? その時の体験は参考にならないのか」 「俺達は……お定まりの手順でくっついたスタンダードなカップルですからね、特に何をしたって訳じゃ無いです」 「そういう三沢さんこそ、奥さん居るじゃないですか。どうやって口説いたんです?」 「お、俺は口説いていない、逆だ。俺が口説かれたんだ」 ええぇぇぇ!? と、露骨に驚く二人。然もありなん、どうやったらあの小さくて可愛い奥さんが、この野性味タップリな彼に惹かれるのだろう、と誰もが思う所だろう。 三沢は二人のリアクションに憮然とし、コメントは控えたという。何しろ、それを話してしまう事は彼の秘密を暴露するのと同義。それは避けねばならない事だったからだ。 「さて置き……奴の事だ。さて、どうする?」 「……何を、どうするって?」 「と、トオルさん! ……いつから?」 「いつからも何も……ここ通らなきゃホールに戻れねぇだろが。それを、このデカブツが塞いでちゃジャマだっつぅの」 人の噂を、大声で……デリカシーってモンが無いのかい! と、徹はあからさまに不機嫌そうな態度を隠そうともせず、三人に睨みを利かせた。が、その話題に対して文句を付ける事はしなかった。此処で自分が話題に加われば、逆に思う壺だという事が分かっていたからである。 「……益々、意固地になっちゃいましたね」 「どうしよう? このまま黙って見てるなんて、私いやよ?」 「うーむ……」 三人は途方に暮れた。人の恋路に茶々を入れる方が野暮だという事は百も承知。だが、今回は事情が違うのだ。何しろこの件は、既に彼女の方からの『依頼』として受理されているのだから。 さて、どうしたものか…… |
丹羽 誠 (ID:hork0002) 小泉 恵 (ID:peop0001) |
このコンテンツの場合、掲示板に直接執筆者が割り込む形になるので、それを以ってプレイングの代わりとします。 つまり、掲示板のログ自体がそのままプレイングになる訳なんです。 掲示板での相談が苦手だ、って人にはちょっと苦しい形ですけど。 逆に、相談しないで独自のプランだけをポンと出されても、書き手の方が困ってしまうんですよね。 特に連携が必要なミッションでは命取りになります。 だから、せめて一回は掲示板に顔を出し、皆さんの意見を参照して自分なりの考えを述べるようにしてください。 宜しくお願いします。 では、出来上がりまでしばらくお待ちください。 完成までは、次の日付変更から3日間を頂戴致します。 |
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